松山先生と愛犬オリヤ
 |
|
●聞き手
……大野教代 ……謎のねこ
(おそるおそる)こんにちは。
こんにちは。……なんか、お腹空いてきましたねえ。
ねこもお腹空いてます。ではでは、ピザでも頼みましょうか。

はいはい。じゃ、頼んでおきますから、ちゃんとお話ししててね。
はいー。松山さん、最近はいかがお過ごしなのですか?
毎日ヘラヘラしています。
にゃ?
うちのネロ(シェパード)が5月に子供を産みまして、今は日に日に大きくなる子犬たちにニコニコしながら、世話をしている真っ最中です。
おぉ、それはおめでたですねー。ところで、松山先生はなぜ訓練士という職業を目指したのですか?
犬好きだからです。(きっぱりと)
みゅー(そりゃ、犬きらいな人は訓練士目指さないでしょう……)。
実家でシェパードを飼っていまして、大型犬を飼っているとお産とか病気の世話があいつぎますよね。「大変だなぁ」と思いつつもそれをおもしろく感じて、将来の仕事にしようと決心したんです。高校三年生の冬ぐらいのころだったかなぁ。
でも、この仕事のおもしろさがわかってきたのは、独立してここ最近のことです。最近は本当に、毎日が充実しています。
ふむふむ。で、そのシェパードさんは……。
8歳で亡くなりました。タオルを食べて様子がおかしくなりましてね。腸に癒着してしまっていて、お医者さんにつれていって手術してもらったんですけど…だから、僕は犬の調子についてはかなり細かくいうほうなんですよ。飼い主さんの犬でも、ちょっとの様子の違いが気になって気になって、うるさくお願いしてしまうんですね。もちろん、取り越し苦労になることもあるんですけど。
訓練士さんというとシェパードという印象がありますけど、松山さんの場合はそれでシェパードが多いのですか。
いえいえ、もちろんシェパードは大好きですし、シェパードやラブラドールと接する機会は多いですけど、僕は犬種にこだわるということは全くありません。訓練の現場では、ミックスだろうがドーベルマンだろうが、「ぱっ」と受ける印象で指導方法も変わりますしね。
話が飛びますが、たとえば犬種以前の問題で、がうがう怒る犬の訓練を依頼されたとします。「こりゃあぶないなぁ」と思っていたら、訓練士といえども「ガブっ」とやられることがあります(笑)。

あのブルちゃんのお話しをしてくださいよ。出逢いの話し。
ああ、うちのブルちゃんですか(照れ笑い)。
かれこれ11年前ですから、僕がまだ訓練所に在籍していたころの話しなんですが、あれは元旦のことでしたねぇ。散歩でわけいった山中で、木につながれたままのブルドッグを見つけたんですよ。寒くて、小雨が降っているのにね。5ヶ月ぐらいの子供なのに、つながれたまま。
で、いったん帰ったんですがどうも気になって、かなり時間がたってから、もう一度その場所へでかけてみたんですね。そしたらまだつながれたまんまで、しばらくご飯を食べた様子もないし、かなり弱ってた。
それはもしかして、捨てられてた……。
そうですね。このブルは通常のブルドッグとちがって身体が小さいやつだったので、ブルドッグっていうのは、大きなサイズを喜ぶ人もいますからね、だから、大きくならないサイズで生まれたこいつは捨てられたのかなあと。あまり考えたくないことですけどね。
それで、バイクの膝元において家に連れて帰った。僕の足元で、ずっとぶるぶる震えていたので「やはりこいつはブルドッグだなあ〜」と思いました。以来僕の家の一員になったんですが、一緒に生活してみると、ブルドックというのはすこぶる味わいの深い犬だなあ〜と。シェパードとはまた違う、他のなにものにも代え難い雰囲気があります。
ですから、ブル・フリークの方は僕までご連絡ください。お待ちしています(笑)。
ということだそうですので、ブル・フリークのみなさんは松山さんに熱いコールを。それはおいときまして、松山さんは「訓練」というものをどのようにとらえているのでしょうか? というか、訓練に対する松山さんの姿勢といいますか。
ガキ大将でいたいですね。 基本的に僕は犬に対してガキ大将でいたいです。なぜかといいますと、散歩の時ひっぱるとか、吠えるとか、噛むだとかいった問題行動のある犬を訓練する場合、人間として接する以上は、やはり犬にとって理不尽なことも命令していると思うんです。だから、訓練士としての僕は犬にとってのガキ大将。
のび太にとってのジャイアン?
あそこまでの強制はしません。問題犬が人間に歩み寄れる様な訓練を進めたいですね。いきなり「があっ!」と命令するようなことはしません。飼い主さんの気分によってもその日その日の犬のコンディションが違うのはあたりまえですし、飼い主さん、犬、僕の三者で気分を損ねないように訓練するのが理想です。
やさしいガキ大将なんですね。
軍隊の訓練ではないですから。「ふせ」で後ろ足をくずしてもいい。だけど胸は地面につけろと。「おすわり」ならお尻をつけろよ、という教え方です。
問題犬の行動ってね、飼い主さんとのコミュニケーションの不足が、原因になっているケースが多いと考えるんですよ。だから、そのコミュニケーションの不足を補うのが僕の仕事です。楽しくコミュニケーションできる様に、もつれた糸を一本ずつほぐしてあげたい。犬も嬉しくなるし、飼い主さんも嬉しくなる訓練。飼い主さんの困った顔、喜ぶような犬なんて、本来いないと思うんです。
「飼い主さんの困った顔を喜ばない」ですか。う〜ん、深い言葉ですね。
もちろん、人間にだって我慢しないといけないところはあります。だって、生後1年の犬って、人間にたとえれば中学3年生ぐらいですからね。根気よく教えてあげないと。しつけも織りまぜていきながらね。だから、人間側にも我慢と根気は必要です。
あのね、みちよさん。人間と犬って家族でしょうか。そこできちんと肝に銘じとかないといけないのは、あたりまえながら生物としての種族が違うということですよね。もちろん、気持ちは家族だから、一緒に生活する以上はお互いのルールが必要。人間のルールにあわせていかないといけません。飼い主さんも犬のルールにあわせないといけません。

人間側の問題というと、おなじ人間同士でもいろんな問題があるぐらいですもんね。
最近売れている子育てのマニュアル本で、よく厳しいことを書いてあるのを見かけます。本の通りでなければ親は焦るんですね。赤ちゃんの歯並びが本の通りじゃない時、お母さんが「うわあ、どうしようこの子」ってパニックになる。そんなときおばあちゃんが出てきて「あのね、これはこうこうだからだいじょうぶなのよ」と安心させてくれる。
そうそう。そのおばあちゃんみたいな役目がいいですね。
犬のしつけの本もいろいろありますけど「ホンマにこの通りできるんかいな??」というのがたくさんあります。
だから、訓練士はもっと敷居が低くていいと思う、というか、低くないとだめです。
「血統書がある」とか「高価な犬」とかいうのは全然問題じゃないです。「頼むほど立派な犬じゃないし」「こんなん、頼むほどのことでもないし」としりごみされてる方が多いですね。接してみて、はじめていろいろなことに気づいてくださいます。僕みたいに出張訓練がメインだと「こんな便利な存在やったんか」「こんなに気さくな存在でしたか」ということ、ホント多いです。

お母さんが赤ちゃんに言葉や態度を教えていくように、コミュニケーションの共通言語みたいなものを犬にも教えて、人間にも教えて……。
よく「訓練しないといけない」とか「しつけだけでいい」とか議論されますけど、どっちも一緒な様で、微妙に違います。まあ、強いてその違いを人間にたとえるなら、「ピアノを上手に弾く練習」が訓練で、「夜中にピアノを弾いてはいけません」というのがしつけですね。
ショパン・コンクールで優勝するほどの実力があっても、夜中にバンバン弾かれたら家族や近所の人が迷惑します。ピアノを上手に弾けるのはすごくいいことですけど、迷惑はまた別ですよね。
訓練士だからといって、競技会に出場するための訓練ばかりしているというわけではありません。みんなの迷惑にならない様にピアノを弾きたければ、そのお手伝いを。ピアノを上達させたいなら、もちろんそのお手伝いもするというのが訓練士です。
だから僕は「いきなり訓練」ということはせず、最初は相談・アドバイスから。それで駄目な場合は訓練をスタートするようにしています。
それと、僕は乗馬が好きなんですけど、犬とおなじように馬もよく人を見ています。しかし、馬は犬と似て非なるもので、馬について、僕は素人なので「こうしろ」といってもなかなかそうしてくれません(笑)。
馬が僕のいうことを聞いてくれないメカニズムはわかりますけど、僕はどうすることもできず、そんな時には馬のせいにしてしまう自分がいます。だから、問題犬の飼い主さんの気持ちはよくわかりますね。
松山さんの「夢」を教えてください。お仕事のことでも、お仕事からはなれた個人的な抱負でもいいです。
夢ですか。うむむむ(笑)。
やっぱり、犬の訓練に関係することですね。
訓練士としては、これから独自の道を打ち立てていきたいと思っています。サークルというのかな、飲み食いできて、場所があって、勉強できて、ひがな一日そこでマイ・ドッグとぶらぶら過ごせるような場所の完成がそのひとつ。今、西宮界隈で土地を探しているんですけど、なかなかいい場所が見つからないんですよね。実現一歩手前なのに。
ここ3年間に3回ほどヨーロッパへでかけたんですが、むこうの社会の犬をとりまく環境とか、飼い主さんの犬に接する考え方とかに、つくづく考えさせられたんですよ。
ベルギーのある街角で、小学校の1、2年程度の男の子が犬に対してこんこんと説教している場面を見ました。彼のお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんも犬に対してそうして接してきたのだろうし、そんなさりげない風景だけで、それだけの歴史を感じさせるなにかが、ヨーロッパには確実にありますね。
それと、ヨーロッパの犬はドッグ・クラブだけでなく、ゴルフのクラブハウスの様な公共の場所にも、社会の一員として参加しているんです。シェパード、ドーベルマン、ジャックラッセル・テリア、ボーダーコリーとか、いろいろいましたねえ。新聞を読む飼い主の膝元でおとなしくしていたり、食事中の飼い主のそばでおとなしく待っていたり……。
で、これから僕が作りたい施設とは犬がそういう風に振る舞えるような場所なんです。訓練士がやってる近寄りがたい特殊な施設だと意識させないような、ファミレス感覚で気さくに犬を連れていける場所です。そこでは世間話をしたり、犬について軽くアドバイスしたり、されたり。
内容は訓練所みたいなものなんだけど、既存の訓練所とはちょっと雰囲気の違う施設を目指しています。訓練士の先輩後輩でアドバイスをしていたり、そこではほとんどの犬が「しなければいけないこと」「休むこと」を人間と同じように「社会での義務」として自覚していると、いったような。いいですねぇ。絶対実現させたい。いや、させるぞ。
にゃー、大きな夢ですねー。というか、もう夢じゃなくなりつつあるのですね。楽しみですね。その施設の完成を心待ちにしています。
あ、ピザが来ましたね。食べましょう食べましょう。今日はお忙しいところありがとうございました。
いえいえどういたしまして。
それと、最近インターネットなるものをはじめて「メール・アドレス」というものができてしまいました。 これはなかなか便利そうでおもしろいものですね。
|